唯物論研究協会の意見表明

特別決議:「報復戦争」に反対し,国際連帯による平和的解決を求める日本社会の大きな方向転換を憂慮する

2001年10月27日 唯物論研究協会第24回総会

 9月11日、アメリカ合衆国を襲った同時多発テロによって、6千名を越える人びとが非道な暴力の犠牲となった。私たちは、このような残虐卑劣な行為を断じて許すことはできない。私たちは、犠牲者とその遺族、関係者の方がたに深い哀悼の意を表するとともに、多数の市民を標的とした今回の無差別テロの暴挙を厳しく糾弾する。そして、二度とこのような悲劇がくり返されないよう、世界中の国ぐに・人びとが連帯し、平和的な解決に向けて英知と力を結集することを強く望むものである。
 だが、その後の事態は私たちの願いをまったく裏切るものとなった。アメリカ政府はこのテロ攻撃をただちに「戦争行為」と断定し、人びとの哀しみと怒りを憎悪へと駆り立て、ついにイギリス政府とともにアフガニスタンに対する「報復戦争」を開始するに及んだ。日本政府もまたこれに無条件に追随し,軍事報復へのあらゆる支援策を講じるとともに、「テロ対策」を口実として事実上の自衛隊参戦の道を開き、憲法の平和原則さえ公然と蹂躙しようとしている。私たちは、アメリカ政府による「報復戦争」も、これに荷担して憲法を否定しようとする日本政府の対応もとうてい容認することはできない。いま緊急に求められるのは、罪なき多数の人びとを殺傷した実行犯及び組織者を、国際法にもとずく厳正な裁判にかけて裁きうる強力な国際連帯を築くことであり、「報復」という新たな暴力によって、無辜の人びとの犠牲をさらに積み重ねることではない。
 そもそも、今回のテロ攻撃を「戦争行為」とし、「報復戦争」を正当化することはできない。テロリズムは犯罪であって,国家間の戦闘行為である戦争ではない。国際テロという重大犯罪は、国際的な平和的包囲網によって裁かれる性質のものである。国連憲章は「あらゆる紛争の平和的手段による解決」を義務づけており、1970年の国連総会では「武力の行使を伴う復仇行為を慎む義務」が全会一致で決議された。アメリカ政府の軍事報復は、このような国際社会の長年の努力による合意を踏みにじるものである。
 さらに軍事報復は、犠牲者をはじめ全世界の多数の人びとが心から望んでいるテロリズムの根絶に有効であるどころか、新たな惨禍を生み、更なるテロを誘発するものである。すでに「報復戦争」は軍事テロの様相を呈している。国連機関によれば、軍事攻撃の開始によってアフガニスタン地域における難民の数は800万人にも達すると予測される。空爆・戦闘による市民の犠牲に加えて,膨大な数の罪なき人びとが難民として荒野に放たれ、餓死する悲惨な結果を招くことは明らかである。この途方もない絶望が新たな報復テロの温床となり、報復が報復を呼ぶ暴力の連鎖がもたらされ、21世紀が再び戦争と暴力の世紀へと逆戻りする危険がいままさに現実になりつつある。テロリズムの背景に圧倒的な貧困と暴力に蹂躙された人びとの絶望と怒りがあることをけっして忘れてはならない。しかも今日、その最大の責任はアメリカ合衆国および多国籍企業のグローバリズムに帰されるべきものである。そしてテロと暴力に脅える社会が、その内部から自由と民主主義を腐蝕させてゆくこともまた銘記しなければならない。
 事態は重大な岐路にある。グロ−バリズムの裏側に蓄積された巨大な貧困と飢餓、不平等を根絶する展望を見失うことなく、国際連帯による事態の平和的解決を粘り強く追求することこそ、いま必要なことである。私たちは、アメリカ・イギリス政府に「報復戦争」の即刻停止を求めるとともに、これに荷担して憲法の平和原則を踏みにじろうとする日本政府に対し,軍事報復への追随をやめ,憲法違反の「テロ対策特別措置法案」を直ちに廃案とすることを求める。そして、日本政府が各国政府に働きかけて平和的手段による国際的解決に全力をあげ、さらに国際的な貧困と飢餓の根絶に向けた国際協力の先頭に立ち、憲法に記された「国際社会において名誉ある地位を占める」にふさわしい道を進むよう、強く要求する。
 以上、決議する。

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