唯物論研究協会の意見表明

東日本大震災および福島第一原子力発電所の事故に関する声明

2011年5月27日 唯物論研究協会委員会 委員長 池谷壽夫(日本福祉大学教授)

3月11日に起こった東日本大震災・津波と福島第1原子力発電所の事故は、多くの無辜の人びとの生命と生活基盤(水と土と空気)を大規模に奪い去るとともに、人びとの現在と将来の生命・生活活動に多大な「不安」と「恐怖」をもたらしている。

今回の事態は、大地震の結果であったとはいえ、「未曾有な」災害とか「想定外」の事態などと言って簡単に済ますことのできない問題をはらんでいる。東日本大震災については、すでにこれまで歴史上幾たびか同規模の地震が起こっており、その意味ではけっして「未曾有」とは言えないのである。また福島第1原発の事故にしても、これまで良心的な科学者たちによって何度も警告が発せられ、国会でもその危険性が指摘されてきた。にもかかわらず、東京電力、政界(歴代内閣)、原子力研究者3者がそうした危険性をまったく無視して、原子力発電所建設計画を推進し原子力発電所を増設し続けてきたのである。

私たち唯物論研究協会は「現代の社会と文化に関する批判的研究の発展と交流」(会則第2条)を目的とする学会として、これまでも日本の社会と文化のあり方、学問研究のあり方について重大な関心を払ってきた。今回の事態は、私たちにとって、否、すべての学者・研究者たちに対して、研究のあり方や知のあり方を根底から反省することを迫っている。従来の地震対策や原発問題に対して、これまで少なからずの人びとが警鐘を鳴らしてきた。これらに対して、私たち研究者はその声に誠実に耳を傾け応えてきたのだろうか。それが今問われている。このことに鑑み、以下の諸点を関係者に訴え、要請するものである。

第1に、震災復興については、被災者の基本的な生存権が保障され、農業と漁業などの生業が、地域の人びとの権利として回復されること、できる限り生まれ育った土地に住み続ける権利が保証されること、復興の計画と実施にあたっては、住民の意思が十分に反映されるように民主的な手続きにもとづいてなされるべきこと、を求める。

第2に、原発事故について、速やかな収束を実現するための最大限の体制をとるよう、政府ならびに原子力関係機関に要請する。同時に、今回の災害と事態を国民が考える上で必要な情報を収集するとともに、これまでの情報とデータをただちに国民に公開することを求めるとともに、エネルギー政策についても原発依存体制を根本的に検討することを要請する。

第3に、とりわけ原発について「安全」神話を振りまき、事故が起これば情報を秘匿し「想定外」を繰り返した学問研究に対して、根本的な反省を求めたい。とくに原発を推進してきた学者たちの責任は、生活と土地の取り返しのつかない喪失を考えれば重大であり、学問研究そのものの存立意義が問われている。

私たち唯物論研究協会に集う研究者は、今切実に求められている「自然と人間との調和をめざす知」、「人間相互を結びつけていく知」のあり方を共同して追究していくという課題に、積極的に応えたいと考える。

戻る