唯物論研究協会の意見表明

学校教育法の改正案及び国立大学法人法の改正案の廃案を要求する

2014年5月10日 唯物論研究協会(全国唯研)委員会

 政府・文部科学省は、学校教育法と国立大学法人法の改正を、今国会で強行しようとしている。学問の自由と大学の自治を侵害する今回の改正に対し、唯物論研究協会(全国唯研)委員会は断固反対し、法改正案の廃案を強く要求する。

 教授会の地位について、現在の学校教育法第93条は「大学には」、人事権や予算権を含む「重要な事項を審議するため、教授会を置かなければならない」と明確に定めている。だが今回の学校教育法改正案では、この条文が廃止され、教授会の権限は「1、学生の入学、卒業及び課程の修了 2、学位の授与 3、前二号に掲げるもののほか、教育研究に関する重要な事項で、学長が教授会の意見を聴くことが必要であると認めるもの」に限定・縮小される。これでは学部教授会は、学長のたんなる諮問機関となる。つまり、学科やコースの改廃などの学部組織の改革の権限、更には学部予算の決定権や学部長の選考の権限(*)が教授会から奪われる。しかも、教授会が審議する教育研究に関する事項ですら、学長が必要と認めたものについてのみ、意見を聴取するだけのものとなる。現行の教授会自治も、大学の全構成員自治という理念からすれば不十分であるというべきだが、今回の改正は、その教授会自治をも根幹から否定するものであり、大学自治を現行の水準からも大きく後退させ、その基盤を掘り崩すものである。

* 今回の法改正の基本を決めた中教審大学分科会の「大学のガバナンス改革の推進について(審議まとめ)」(平成25年2月12日)では、教育公務員特例法第3条第3項で「当該学部の教授会の議に基づき、学長が行う」とした学部の総意を踏まえた学部長選考を否定し、更には教特法全体が国立大学法人法の下では適用除外になると明言されている。

 大学の自治は大学における学問の自由のために必要不可欠である。大学における学問の自由は、たんなる理念ではなく、学者ひとりひとりの心構えだけで維持されるものではない。それは教育研究組織のあり方、その組織の中で日々の営みのなかで制度的、日常的に維持保障されるものである。教育者・研究者が教育研究条件をみずから決定し、実践する権限を有していなくては学問の自由の内実は確保されない。学部教授会が学長のたんなる諮問機関にされるなら、大学における学問の自由は、事実上、破壊されることになる。

 また今回の国立大学法人法改正案では、学長決定権の全てをごく少数の者からなる学長選考会議に与えようとしている。これも大学の自治を根底から破壊するものである。かつての国立大学における学長選挙が改廃され、意向投票制度としてのみ残されている現行の学長選考に対する大学構成員の権限が、学長選考に関する第12条第7号に「学長選考会議が定める基準により」という文言が付加されることでさらに縮小、消滅する方向へと改正されようとしているのである。

 更に今回の改正案では、第20条第3号の「国立大学法人の経営に関する重要事項を審議する機関」たる経営協議会の委員における学外者の数が、現行の「二分の一以上」から「過半数」に変更されようとしている。これは「経営に関する重要事項」について、その帰趨を学外者にゆだねるものである。これは大学経営に対する大学構成員の発言権を否定するどころか、学校教育法改正や中教審の「審議まとめ」の強調する、学長のリーダーシップの強化という方向にすら抵触する。経営に関して、財界や権力に近い学外者が、学長の意向すら超える力を持つ可能性がある。

 そもそも、今回の改正でも目標とされている学長のリーダーシップの強化では、リーダーシップの強化が、たんなる上意下達であると誤認されている。大学構成員の総意を汲まず、構成員の内発的自発的な意欲と創意を引き出すことのない、権力的なリーダーシップなるものは、実際には機能しえず、そうであるがゆえにことさら強権的となる。学長が真のリーダーシップを確立、発揮するには、むしろ大学構成の自治を重視すべきである。

 このような大学の改革は学生にも大きな影響が及ぶ。財界の意向を直接に体現した経営体制、強権的な組織体制の下で、学生とじかに接する教員の権限が縮小されれば、学生にとって学びやすい環境は劣化する。自由な学問探求の中で、自分を深く顧み、社会の中で自分をいかに位置づけるか悩み、試行錯誤をともないながら自分なりの進路を主体的に決定して社会に飛び込む準備をするという、複雑化した現代社会の青年期にとって大学生活がもつ意義は失われ、学生の存在は、トップの意向を実現し、数値でしか救い上げられないような目標達成のためのたんなる客体へと切り詰められていくだろう。学生生活から自由度が失われ、余裕のないものとされてしまうだろう。

 我々、全国唯研には、先達であり1932年に創設された唯物論研究会が、治安維持法の下で弾圧されついには解散に追い込まれ、一斉検挙されるに至って学問研究の自由を完全に剥奪された歴史がある。その後の日中戦争開始から国家総動員法施行などを想起すれば、学問研究の自由の剥奪が如何に恐ろしく悲惨な事態に繋がるかは明白である。大学における学問の自由と教授会自治を破壊する今回の法改正は、学問の自由全般の否定に直結しており、ひいては思想・信条の自由の剥奪や国民全体の日常への抑圧にすら至りかねないものである。付言すれば、このように危険な今回の学校教育法及び国立大学法人法の改正案は、教育長の任命権を時々の首長に与えて教育の政治的中立性の否定を目論む法改正の動きなどと同根であり、これらは、大学教育のみならず日本の教育全体を危うくする反動的な政治動向の現われであり、憲法23条に違反し戦後民主主義の善き伝統を破壊するものである。

 我々、唯物論研究協会(全国唯研)委員会は、このような危険性のある今回の学校教育法及び国立大学法人法の改正案の廃案を強く要求すると共に、全ての大学人のみならず、多くの日本国民がこの廃案要求に賛同されんことを、強く訴えるものである。

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