唯物論研究協会の意見表明

日本学術会議の独立性を侵害する政府による関連法改正方針の撤回を要求する

2023年1月15日 唯物論研究協会(全国唯研)委員会

 内閣府は2022年12月6日、日本学術会議との何らの協議も経ることなく「日本学術会議の在り方についての方針」を公表した。方針では学術会議が「政府等と問題意識と時間軸を共有」し、会員選考において「第三者の参画」を行い、「内閣総理大臣による任命が適正かつ円滑に行われるよう必要な措置を講じる」よう必要な関連法の改正を行うとされている。一方で引き続き国の機関として存置するとはしているものの、政府等から独立した学術の立場から多様な助言や政策的提言を行う組織として、すぐれた学術上の業績と広い視野・見識を有する会員及び学術会議に所属する各学協会の関与に基づく自主的な会員選考や運営を行ってきた学術会議のこれまでの在り方を全面的に否定するものとなっている。
 会員選考をめぐる学術会議と政府との対立は、そもそも2020年10月1日の日本学術会議第25期発足にあたり、第24期に推薦された第25期−第26期候補者のうち6名が理由の説明もないままに任命されなかったことが起源となっており、学術会議側が一貫してこれらの委員の即時任命と任命拒否の理由の開示を求めたことに対しても今に至るまで政府側から誠実な回答は得られていない。このような不透明な任命拒否が繰り返されないようにすることが学術会議の独立性を担保する上での不可欠な条件であるにもかかわらず、今回内閣府から示された「方針」では、その具体的内容も明らかではない「第三者の参画」により「内閣総理大臣による任命が適切かつ円滑に行われる」ことを求めており、事実上、学術会議外部の恣意的な政治的判断によって会員選考が左右されることを制度的に正当化しようとしているものと言わざるを得ない。
 また「方針」では学術会議に「政府等と問題意識と時間軸を共有」することを繰りかえし求めており、その時々の政府等の判断から独立した学術の立場に立って学術会議が活動することそのものに否定的な姿勢を明確にしている。このような姿勢は海外のアカデミーにも共通してみられる学術団体としての独立性を認めようとせず、政府の御用機関としての役割を期待する極めて特異なものである。そしてこのことが同じく海外のアカデミーでは一般的な自主的自律的な会員選考を望ましくないものと評価し、外部からの介入を正当化しようとする「方針」の背景ともなっている。
 学術会議は、このような「方針」に対して大会声明(2022年12月21日:日本学術会議第186回総会)及びこの声明に対する梶田会長名での説明(2022年12月27日)において、学術会議の独立性を大きく毀損する今回の「方針」の再考を求めているが、本協会は学術会議に協力する学協会の一つとしてこれらの学術会議の態度表明を全面的に支持し、今回の内閣府による学術会議関連法改正「方針」の撤回を要求するものである。
 私たち唯物論研究協会は,1978年の創立以来,「唯物論の研究および現代の社会と文化に関する批判的研究の発展と交流」を目的として,戸坂潤らが設立した戦前の唯物論研究会が治安維持法による弾圧を受けた苦い歴史を胸に刻みつつ,自由と民主主義の発展を願って学術研究を進めてきた。その活動の根幹にあるのは「学問の自由」であり、時の権力が「学問の自由」に介入を始めるとき,その時代と社会がどこに向かっているのかを,私たちは身をもって痛切な歴史の経験を通して学んできた。このような歴史と経験を持つ本協会としは、今回の政府による学術会議の独立性侵害の動きは絶対に認めることのできないものであることを改めて表明しておく。

戻る