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会員著書紹介

2023.07.23

上柿崇英著『〈自己完結社会〉の成立』上・下

(農林統計出版、2021 年、税込各 3850円)

 上下2巻からなる本書は、5年間にわたって『現代人間学・人間存在論研究』誌に掲載されてきた著者の考察が、その骨格をなす。長大な論述はとうぜん多岐にわたるが、著者は現代社会が、本質的に〈生身の他者〉とかかわる意味を消し去る社会(これは〈自己完結社会〉とよばれる)であり、〈身体〉をもつ意味を消し去る社会(これは〈生の脱身体化〉とよばれる)であるという洞察にもとづいて、筆をすすめる。こうした考察が、「自立した個人」の批判、人と人との関係のありかた、生活世界や社会的装置、環境世界へと、展開されてゆく。「環境哲学と現代人間学のための思想的試み」と附された副題の示すとおり、本書の主眼は、環境哲学や独自の生活世界論を取りこみつつ、今日もとめられる〈人間学〉を構想するところにある。その〈人間学〉は、ある種の唯物論にかなり近いようにも思われ、全国唯研において議論されてよいであろう。

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