2023.03.10
(かもがわ出版、2021 年、1700円+税)
本書は、若手から中堅の研究者を中心にした「支え合う社会研究会」によって編まれた、現代日本への具体的な経済政策提言集である。この会のメンバーは、経済学、経営学および環境工学の研究者と、さらに実務家も加わった多彩な顔触れであるが、「個人の尊厳を基礎とした全員参加型のコミュニティ(共同体)の思想」をもって日本社会を改革していくことを掲げ、研究会を重ねた成果が、本書にまとめられている。共有認識として「収益性(利潤)確保を何よりも優先する資本主義の原理」に現状の限界があるということをふまえたうえで、社会保障や税制、環境政策、企業の社会的責任論などが論じられる。
第1章(佐藤拓也、村上研一)では、日本経済停滞の歴史的原因について論じられる。バブル崩壊以降、資本の基本的傾向が、投資抑制による利潤率の追求となり、短期収益性の追求が産業を弱体化させ、長期的な産業の競争力を失わせていくものであったことが示される。第2章(佐藤拓也、村上研一)では、日本経済改革の基本的方向性が示される。利潤原理ではなく人びとの生活を第一の推進動機とする経済というのがそれである。そのために、新自由主義的政策を転換して目指すべき具体的な方向性として、基礎的生活条件の保障を通じた内需の拡大と、雇用・地域経済を支える持続可能な産業構造の構築が必要だと論じられる。第3章(田辺麟太郎)では、社会保障の現状の問題、および支え合う社会の社会保障と財源論について論じられる。所得再分配の強化を訴える基調のうえに、給付付き税額控除やベーシックインカムなどの提案が含まれていることが特徴的である。第4章(歌川学)では、気候危機に対する環境政策について論じられる。豊富なデータを示しながら、早急な省エネ、再エネ技術への投資が経済的なメリットもともなって脱炭素社会の実現に結びつくことが述べられている。第5章(森原康仁)では、GAFAのような IT 巨大企業の独占がもたらす影響と、それらに社会的責任を果たさせるための政治や社会運動の役割について述べられている。最先端技術の下におけるプライバシーの保護のためには、そうした企業の事業活動に市民が関与する必要があると論じられる。
全般的に平易な文体で書かれ、具体的な話が中心であるため、専門外の読者でも読みやすく、議論しやすい本だといえる。この研究会のさらなる発展と、今後の成果を期待したい。
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