2021.07.16
人文書院、2018 年、4500 円(税別)
本書は冷戦中、そしてその崩壊以後ますます重要な思想家とみなされつつもハンナ・アーレントの思想を、とくに彼女のマルクス誤読(価値のある豊かな誤読)を通して再構成しようという意欲作である。タイトルが〈アーレントとマルクス〉ではなく〈アーレントのマルクス〉となっている通り、アーレントを通じたマルクス、あるいはマルクスを通じたアーレントを考察しようというのが本書のテーマである。 そして、アーレントは伝統主義者、反マルクス主義者といった否定的イメージとともに語られることもあるが、このイメージを払拭しようというのが裏テーマである。
第一章では『全体主義の起源』から『人間の条件』へと至るアーレントの思想の変化を、彼女がその間に打ち込んでいたマルクス研究を手がかりに読み解かれる。第二章はアーレントがマルクスの「労働」概念を誤読したという批判に対し、アーレントが独自の労働概念を持っていたこと、『人間の条件』の労働/仕事/活動という3 要素が、実はマルクスの労働概念に包含されており、彼女は同時代の状況を記述するために敢えて分節化したのではないか、という魅力的な仮説が提示される。それはとりわけ第三章以降で展開されるアーレント独自のキーワード、「余暇」「政治」「社会的なもの」といった概念の分析と意義づけによって間接的に論証されるだろう。
国内国外の豊富な先行研究を踏まえつつ、アーレントを精密に読解し、それを平易な文章でまとめあげた著者の力量は見事である。本書は、今後のアーレント研究にとって基礎文献となるはずである。
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