2021.07.16
本の泉社、2021 年、2728 円(税別)
環境正義、コモンズ論、共同体論、労働と技術、小農、デジタル革命など、多彩ともみえる論点に著者は近年とりくんできたが、それらが〈変革思想〉に向かって収斂することが本書で示される。さらにさかのぼれば、言語・コミュニケーション・遊びなどの「尾関人間学」がこの〈変革思想〉への道に流れこみ、これまでの研究が明示的に〈変革思想〉のもとに集成された感がある。本書で論じられる〈変革思想〉の特徴的な核心ないし土台は〈自然と人間の物質代謝〉にあるといえるだろう。〈自然と人間の物質代謝〉概念は生態学的意味をも含意する社会理論的概念であり、従来の生産力史観より包括的な人類史的歴史観になりうると著者は考える。近代世界を席捲してきた資本主義社会も「自然と社会の間の物質代謝過程を主導する主体」としてあらわれたのであり、資本主義的経済成長が〈自然と人間の物質代謝〉の亀裂をもたらしたことは、マルクスの洞察のとおりである。
あらためてマルクスの思想を評価するのみならず、著者は昨今のデジタル革命の推移を積極的に取り入れて、「社会構造さえ変革すれば」、世界は〈共生型持続可能社会〉の実現に向かいうると考える。情報技術やAIのような今日的事象をも積極的に取り入れる著者には、技術的可能性と社会制度の変革とを有機的に結合して脱資本主義化(資本主義システムの漸次的脱出)をはかる姿勢が窺える。さらに著者は〈労農アソシエーション〉が社会変革の力となることを力説し、地球環境問題と農業問題とデジタル問題とを統合して社会変革理論の構築を志す。著者ならではのマルクス理解を根柢に据えつつ、A.トフラーまでも引き合いに出す柔軟性を発揮し、したたかに、そして著実に、現代社会を変革する途をさぐる、柔軟で重厚な一冊である。
(桜井書店、2023 年 7 月、税別 4500 円) 昨年の『「ドイツ・イデオロギー」の研究』につづく著者渾身の力作。〈Gemeinde=共同体〉と〈Gemeinwesen=共同社会〉との一筋縄ではゆかない区別をふ […]
(農林統計出版、2021 年、税込各 3850円) 上下2巻からなる本書は、5年間にわたって『現代人間学・人間存在論研究』誌に掲載されてきた著者の考察が、その骨格をなす。長大な論述はとうぜん多岐にわたるが、著者は現代社 […]
(藤原書店、2022 年、各巻税込 3960 円) I「ショーペンハウアー」、II「自己格闘者ニーチェ」、III「マンとハイデガー」という3巻本で、3巻通しで 1121 頁になる大著である。1996年に『〈受難した子供 […]