2023.01.15
2023年1月15日 唯物論研究協会(全国唯研)委員会
2022年12月16日付の安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略及び防衛力整備計画)閣議決定は、政府自身がこれまで「専守防衛」という日本の防衛政策の基本方針に反するものとして認めて来なかった「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有を明記すると共に、防衛力の抜本的強化に向け、2019年の中期防衛力整備計画の約1.6倍にあたる43兆円にも上る今後5年間の防衛費総額の飛躍的拡大を掲げている。このような日本の軍事大国化につながる防衛政策の歴史的大転換は、日本国憲法が定める平和主義の原則を大きく逸脱するものであり、国会での議論も国民的議論も抜きに閣議決定という形で拙速に進められようとしていることを断じて認めることはできない。
特に新たに盛り込まれた「敵基地攻撃能力」については、その行使の条件として「相手国が武力攻撃に着手したとき」という極めて曖昧な基準しか定められておらず、相手国の軍事目標に対する先制攻撃への道を開くものである。またこの能力は「2015年の平和安全法制に際して示された武力行使の3要件を満たす場合に行使しうる」とされていることから、「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険(存立危機事態)があること」(2014年7月1日閣議決定)という要件を満たした場合、例えば台湾有事の際に想定される米軍に対する中国の武力攻撃に対しても適用されうるものとなっており、日本を米軍と一体となった全面的な軍事衝突に巻き込む可能性をはらんでいる。
さらにすでに世界有数の軍事大国となっている日本が今後短期間に急速な防衛費の増額に踏み切ることは、増税や財政破綻、福祉切り捨て等による国民生活の破壊を招くばかりでなく、近隣諸国に脅威と警戒感を与え、際限のない軍拡競争を招くことにもなりかねず、「敵基地攻撃能力」の整備と併せて地域の軍事的緊張を高め、「平和を愛する諸国民の公正と信義を信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」するとした日本国憲法前文の平和主義の精神を根底から裏切ることになると言わざるをえない。
私たち唯物論研究協会は1978年の発足時より、軍備増強に明け暮れた大日本帝国の軍事独裁国家化の下で私たちの協会の先達への言論・思想弾圧が峻烈を極め、同時に国内外に途方もない戦争の惨禍を生んできたことを深く心に刻み、平和と民主主義の原則にもとづく社会の構築とその下での学術の健全な発展を希求している。この度の政府による防衛政策の大転換は、まさにこのような過去の過ちを繰り返す危険な道への第一歩に他ならず、ここに私たちは今回の安保3文書改訂の閣議決定の白紙撤回を強く要求するものである。
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