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意見表明

2020.03.12

「緊急事態宣言」を可能とする新型インフルエンザ等対策特別措置法「改正」に反対する

唯物論研究協会(全国唯研)委員会

 新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化するなか,3月10日,政府は「最悪の事態に備える」として,現行の新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下,特措法)の対象に新型コロナウイルス感染症を追加する「改正」案を国会に提出し,驚くべきことに13日の成立を図っている。安倍首相も明言しているように,「改正」の狙いは,新型コロナウイルスの感染拡大を理由として,「緊急事態宣言」の発動を可能とすることである。

 特措法「改正」によって「緊急事態宣言」が発動されれば,政府と行政に権力が集中し,新型コロナウイルスの感染拡大のおそれがあるとして,例えば移動の自由や集会の自由,表現の自由など,国民の人権が大きく制限される事態ともなりかねない。ところが特措法には政府による人権制限に対する有効な歯止めが見当たらない。日本国憲法と民主主義の原理は「緊急事態宣言」と基本的に相容れないことを銘記すべきであり,「緊急事態」を口実に憲法と民主主義がないがしろにされることがあってはならない。

 新型コロナウィルス対策をめぐっていま起きているのは,「緊急事態宣言」の必要性ではなく,政府の対策と国民の不安との乖離であり,安倍内閣の独断と国民生活との乖離である。必要なのは国民の不安に応える検査体制や医療体制の整備であり,平常な国民生活の基盤を支えることである。ところが安倍首相は,政府の初期対応の遅れが内外から厳しく批判されるなかで,専門家会議に諮ることもなく突然に全国の小・中・高校等の「一斉休校」を要請し,国民生活をいっそうの不安と混乱,「自粛」へと落とし込んだ。政府と国民とのこの乖離は民主主義によってのみ正されるべきものだが,特措法「改正」は「緊急事態宣言」によって民主主義を封殺し,この乖離を隠蔽しようとするものである。さらには,緊急事態条項を新設しようとする改憲への動きが背後に見え隠れすることにも注意すべきである。
     
 私たち唯物論研究協会は,1978年の創立以来,「唯物論の研究および現代の社会と文化に関する批判的研究の発展と交流」を目的として,戸坂潤らが設立した戦前の唯物論研究会が治安維持法による弾圧を受けた歴史を胸に刻みつつ,自由と民主主義の発展を願って学術研究を進めてきた。今回の特措法「改正」は,私たちの学術研究への願いを踏みにじり,自由と民主主義の発展を阻害するものである。ここに私たちは,「緊急事態宣言」を可能とする新型インフルエンザ等対策特別措置法「改正」に反対することを表明する。

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