2016.05.16
(光文社古典新訳文庫、2016年5月、1,060円+税)
アダム=スミスにも衝撃をあたえたカラス事件をはじめ、西欧での宗教対立とそれにもとづく暴力的な制裁をふまえ、18世紀フランスの批判的文人ヴォルテールが「正義と真実と平和を願う気持ちのみ」に駆り立てられてものした著作の新訳。「哲学が多大の進歩をとげた時代」に、信仰を異にする者を処刑台に送り出す現実を目の当たりにした「善良なカトリック」ヴォルテールは、「宗教とは慈悲にみちたものなのか、それとも宗教とは野蛮なものなのか」を問う。同胞を憎み迫害する宗教心が跋扈する団体においては「幻想をいだく習慣が技術となり、システムと化し」、その現実について著者は「口にするのもおぞましいことだが、これを真実として語らねばならない。すなわち、迫害者、死刑執行人、人殺し、それはわれわれである」と、集団としての自己を批判の俎上にのぼす。「ひとつの町の住民全員を心から敬服させることよりも、全世界を武力で征服することのほうがよほど簡単だろう」としるす著者は、人々の信仰が一致すること、みなが「画一的な考え方」を身につけることが不可能であると知っている。寛容とは〈tolerance〉の訳語であるが〈tolerance〉には我慢・辛抱のほかに「信教の自由」という意味がある。それだから信仰が異なっても、同じ人間として尊重されるべきなのだ。「すべての人間を自分の兄弟と見なすべきだと言いたい。えっ、何だって、トルコ人も自分の兄弟なのか。中国人も、ユダヤ人も、シャム人も、われわれの兄弟なのか。そうだ、断固そのとおり」。これは過去の話にとどまらない。同じ著者の『カンディード』やミル『自由論』をふくめ、古典の飜訳に力を注いでいる訳者に敬意を表したい。
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