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会員著書紹介

2016.09.26

中西新太郎
『人が人のなかで生きてゆくこと――社会をひらく「ケア」の視点から』

(はるか書房、2015年8月、1,700円+税)

 長年にわたる著者の青年研究によって培われた知見に基づき、危機的な状況に瀕している現代日本の社会関係をどのように組み変えることが可能なのかを問うた一冊。他者と関わりを持とうとする営みが、ともすれば暴力的な支配関係に陥り、他方では孤立と分断とを生み出しているという矛盾した状況を、具体例に即しながら丹念に読みといた上で、社会を壊すことなく、安定した関係を作りうるような他者に対する向き合い方を、「ケア」という言葉でつかまえようとしている。そこで言われる「ケア」の意味は、通常使われるよりもずっと広く、人と人とが豊かな生を育むために必要なあらゆる人間関係の根底にあるものとして、ひいては真に民主的な社会を保障するための基盤という含意まで持っており、つまるところ、そうした「ケア」を社会に埋め込んでいくための方法を探るのが本書の最大の目的だと言ってよい。認識はシビアで先行きは決して明るいものではないが、自分にはどうすることもできない他者が存在せざるえないことの必然性を根拠に、社会関係を組み変えるための資源はあちこちに転がっていると示唆する本書は、意外なほど希望に満ちている。

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