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会員著書紹介

2021.07.16

尾関夢子・尾関周二『こころの病は人生もよう』

本の泉社、2021 年、1819 円(税別)

 世の大半を占める〝常識人〟からすれば「幻覚」と「妄想」とは理解しがたい現象で、これらの症状が基準をなしてきたのが統合失調症という病である。けれどもそれは、たんに一部の人々だけの限定的
な問題であるのではなく、無意識をふくむ人間の精神のありようを映しだすものである。これらをめぐるフロイト、ユング、エリクソンらの研究蓄積が本書第Ⅰ部で大きく取りあげられ、著者はそこでユングのいう普遍的無意識のうちに〈人間の共生の思想〉をみいだす。そのほかに、こころの病は「生活状況」に左右され、患者の対処においても「生きる環境」が重要であると説くサリヴァン、患者が「自分の気持ちが汲まれた」と感ずることや患者と治療者との間に「基本的信頼」が築かれ「安心」が得られることの重みを論ずる中井久夫などが、肯定的に評価される。心理学や精神医学の素養がない書評子にも理解できる平明な叙述で、江湖に裨益するところ大である。

 第Ⅱ部では「人類の精神史」という壮大な主題のもとに、西洋近代哲学・生物学・神経科学・人類史
そして文明史が「素描」される。丸山眞男の「古層」論は依然として批判的検討に附さねばならないだろうが、それとは別に、広壮でたえず展延する著者の問題意識と学識とには驚かされるばかりである。向後の著者の研究方向を予感させる一篇である。

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