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会員著書紹介

2023.03.10

戸田清著『人はなぜ戦争をするのか』

(法律文化社 2019 年、1000 円+税)

 7 章構成の本書では、第 1 章では、20 万年に渡る人類史において、殺人や集団暴力とは区別された意味での「戦争」の登場は比較的新しく(世界で 8000 年前、日本では 2000 年前)、人を殺傷するための武器の発達や戦士・戦闘場面の造形化など「戦争文化」の形成以後のものであり、階級社会の形成に伴う差別や不平等がその背景にあること、第 2 章では、戦争の構造的要因としての人口増加、一人当たり資源消費の増大、階級格差の増大、核開発や有害な化学物質の生産、遺伝子組み換え等の技術の発達、宗教的対立、人種差別、民族差別、男女差別等の戦争や暴力を正当化するイデオロギーの5 つの要因があげられ、第 3 章では、女性よりも男性の暴力性が高いといった生物学的要因から女性の社会進出がより平和的社会の建設に貢献しうるのではないかという提案が行われ、第 4 章では、日本に原爆が投下された原因を、日本の侵略戦争の開始、アメリカの原爆開発、日米の戦争引き延ばし、「事前警告なしの都市投下」が戦争犯罪にあたることへの無知等に分けて分析し、再び核戦争が行われないためにはこれらの原因を正しく認識し、それを芽の段階で摘むための運動が必要であることが指摘され、第 5 章では、最近の日本の防衛政策にも顕著な集団的自衛権の行使が戦争協力のリスクを増すことが強調され、第 6 章では人類史的展望の下では、化石燃料や核エネルギーの再生エネルギーへの転換、人口減少等によって戦争なき社会が十分に実現可能であることが示され、最後の第 7 章では、これらの知見の下で、戦争の構造的原因を取り除くためには何をなすべきかを示す平和教育の方向性が提案されている。

 本書は著者の勤務地であった長崎の原爆被爆者の講話後に、子供たちから寄せられた「そもそも、なぜ大人は戦争をするのか」「なぜ原爆は投下されたのか」という率直な疑問に答えることを出発点として意図され、大学の平和講座のテキストとしての使用も想定されたものであり、平易な記述の下で、戦争という人為的な出来事に対する原理的批判とその克服への道が提示されている。

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