2006.05.20
唯物論研究協会委員会
政府はさる4月28日の閣議で、教育基本法「改正」案を決定し、国会に提出し、今国会で成立させようとしている。これに「対抗」すべく、民主党も5月15日に「日本国教育基本法案(新法)要綱」を出した。そして、5月11日には教育基本法「改正」のための特別委員会が設置された。
われわれ唯物論研究協会は、今回の政府および民主党のめざす教育基本法の改悪に断固反対する。
今回の教育基本法改正の中心的な狙いは、小泉内閣が推し進めてきた新自由主義改革のもとで自ら作り出してきた社会的統合の危機と公共性の衰退を、道徳性を教化することによって回避しようとすることにある。
そもそも教育基本法は、日本国憲法と一体になって定められた基本法であり、憲法の柱である国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を実現する主権者を育むために、定められた、いわば教育の憲法である。これをいたずらに「改正」しようとすることは、憲法を「改正」しようとすることに他ならない。
もちろん、時代が大きく進み人権が豊かになるにつれて、教育基本法や憲法も、現代的な人権の前進に合わせて、修正されることは十分ありえるであろう。しかし、今回の「改正」の内容を見ると、現代の人権の発展にすらまったく逆行していると言わざるを得ない。
第1に、両案の重大な問題点は、彼らの考えている「愛国心」なるものを、一方的にわれわれに押し付けていることにある。すなわち、政府案では「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛する」ことを教育の目標に掲げているし、民主党案はもっと露骨に、「日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い、子孫に想いをいた」すことまでをも、われわれに求めている。これは思想および良心の自由を定めた憲法19条に明白に違反するものであり、個人の思想信条よりも国家を上位におくものである。
第2に、両案ともに、「平和的な国家および社会の形成者」をはぐくむためというよりは、彼らの望む人間像と徳目、道徳心をわれわれに押し付ける内容になっている。これは、政府自身が批准した国連の「子どもの権利条約」の精神と趣旨にも、真っ向から対立したものになっている。すなわち、彼らの考えている教育は、子どもの発達と権利の行使を保障し支援するためのものではなく、国家や一部の大人たちが望む人間像を子どもたちに一方的に押し付けるものである。そうした考えは、両案の義務教育や家庭教育のとらえ方にも顕著に現れている。
第3に、それに関連して、両案ともに、教育はこれまで「国民全体に対し直接責任を負」うものであり、「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標」としてきた教育行政のあり方を大きく変えようとしている。
しかも、第4に、新たに設けられた「教育振興計画」の条項は、教育の新自由主義的な改革を国家が自治体に強制する手段となる危険性を十分にはらんでいる。
さらに、「女性差別撤廃条約」や「男女共同参画社会基本法」の理念である女性差別の撤廃や男女平等が明確に規定されず、むしろ現行教育基本法第5条の共学条項が削られ、男女特性論にもとづく「男女平等」が押し付けられている。
唯物論研究協会委員会は、以上の理由から教育基本法の「改正」に断固反対することをここに表明する。
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