2014.01.31
唯物論研究協会(全国唯研)委員会
前および現彦根市長側によって、『新修彦根市史 通史 現代』(以下、『彦根市史 現代』)の発刊が中止させられようとしている問題に接し、全国唯研委員会は、こうした権威や権力による学問の自由への不当な介入に断固抗議するとともに、こうした不当な介入を直ちに止めることを要求する。
『彦根市史 現代』原稿は、正式に彦根市当局との契約に基づいて、数多くの歴史研究者により執筆された上、執筆料も執筆者に支払われており、一度は彦根市当局もこの原稿を受領した、と見なされるべきである。しかるに、前および現市長側は、近江絹糸労働争議や過去の市長選挙などの歴史記述を巡って、その具体的内容を精査することもなく、「政治的判断」などと称して執筆者の立ち位置を問題視し、その発刊を中止させようとしている。しかも、こうした「政治的判断」に至る経過で、執筆者側とのきちんとした協議すらせず、『彦根市史 現代』の発刊中止を執筆者側に一方的に通告してきたという、手続き上の問題すら未解決のままである。
前および現市長側が示したこれらの行為は、学問的著作である『彦根市史 現代』に対する検閲に他ならず、こうした検閲を許すならば、およそ全ての歴史や現代社会に関わる批判的で公的な発刊が脅かされることになりかねない。この発刊中止問題に関しては、現在、調停が申し立てられたと聞いているが、一刻も早く、権力による学問とその自由への介入が撤回され、『彦根市史 現代』が発刊されて、多くの市民・国民がこの貴重な学問的刊行物を手にできるようになることを切望するものである。
1978年に創設された全国唯研は、「唯物論の研究および現代の社会と文化に関する批判的研究の発展と交流を目的とする全国組織」であり、学問の自由、一切の権力や権威から自由な研究を重視する学協会登録の研究団体である。加えてその創設の前史には、戦前1932年に戸坂潤や岡邦雄らによって設立された唯物論研究会が治安維持法の下で弾圧され、1938年に解散させられ次いで一斉検挙されるという、筆舌に尽くし難い犠牲を強いられた事実がある(唯物論研究会事件)。我々、全国唯研委員会は、学問の自由を侵害する今回の『彦根市史 現代』発刊の中止策動が、「国家総動員法」や侵略戦争に繋がった、戦前のこの唯物論研究会事件の「現代版」となりかねないのではないか、といった危惧すら持っており、こうした策動及び学問の自由への政治的介入に断固反対するものである。
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